
「うちにも専任のマーケ担当を1人置きたい。だが、応募が来ない」。地方の中小住宅会社の経営者から、いま最も多く聞く相談のひとつである。年間棟数10〜30棟、社員10〜30名の会社で、これまでマーケ業務は営業アシスタント兼務か経営者本人が兼務してきた。しかしMeta広告・Instagram・LP・チラシ・LINE・お客様アンケートと、集客業務のチャネル数はここ数年で一気に増えた。もう兼務では回らない。
そこでIndeedやリクナビ、地元求人媒体に「マーケ担当募集」で求人を出す。ところが応募が来ない。ようやく来た応募者を面談すると、住宅業界の経験はあるがマーケ経験ゼロ、あるいはマーケ経験はあるが住宅は初めて。両方持っている人材は、地方にはほぼいない。都心には多少いるが、地方の給与レンジでは来てくれない。仮に採れても定着しない。
ここで多くの経営者が「もっと年収を上げるべきか、それとも未経験を採って育てるか」という二択で悩みが止まる。しかし、この二択の立て方そのものが問題である。マーケ担当の悩みの本丸は「採用」ではなく「育てる仕組み」にある。むしろ、経験者を採ろうとする発想自体が、住宅会社の集客力を長期的に弱くする。
本記事では、住宅会社のマーケ担当を社内で育てる具体的な原則、経営者自身が果たすべき役割、6か月〜1年で「集客できる広報」を1人立ち上げるロードマップまでを整理する。

まずは冷静に、経験者採用が難しい構造を認めるところから始めたい。地方の住宅会社が「マーケ経験者を採る」という選択肢を取り続けているかぎり、集客組織の立ち上げは永遠に前に進まない。
理由は3つある。第1に、住宅×マーケの両方の経験を持つ人材は、そもそも母集団が極端に小さい。デジタル広告・SNS・LPの実務を回せて、かつ住宅商談の文脈も分かる人は、都市部の広告代理店の住宅担当か、大手ハウスメーカーのマーケ部門にほぼ集中している。地方の商圏では、求人媒体を厚めに出しても、そこにたどり着く応募者はまず1〜2名しか出てこない。
第2に、仮に応募が来ても、年収レンジが合わない。マーケ経験者の相場は、地方であっても年収500〜650万円台からのスタートになる。地方中小住宅会社の給与テーブルはこれより一段低いことが多く、無理に合わせて採ると社内の営業担当の年収を追い抜く事態が起きる。組織の給与バランスが崩れる代償のほうが、マーケ担当1人分のコストより大きい。
第3に、来ても定着しない。中途で入ったマーケ経験者は、前職の型を持ち込みたがる。地方中小の広告予算月10〜30万円、商圏半径15〜30km、来場CPA3〜5万円という現実感覚と、大手や代理店のスケール感の差に耐えられず、半年〜1年で辞めていく。
つまり、経験者採用は「採れない、来ても払えない、来ても定着しない」の三重苦である。この構造は、求人票を工夫しても媒体を変えても、根本は変わらない。だから前提を変える。

前提の転換は1つだけ。「経験者を採る」から「未経験を育てる」に切り替える。これは妥協案ではない。むしろ、地方の中小住宅会社が長期的に強くなるための最短ルートである。
住宅会社向けのマーケ支援を続けている、ある専門組織がある。会員となっている地方の中小住宅会社のほとんどは、専任マーケ担当を採る際に「未経験から育てて、自社で集客できる力をつける」というコンセプトで動いている。実際、そのやり方で成果が出ている。未経験入社1年目でMeta広告・イベントLP・Instagram・チラシ・LINEを一通り回し、来場予約数を月10件から月30件に伸ばした会社、月間の広告CPAを半分に落とした会社、と実例は積み上がっている。
なぜ未経験でも回せるようになるのか。理由はシンプルで、住宅会社の集客業務は「特殊な才能」ではなく「正しい方向で努力を積む」ことで、ほぼ全員がある水準まで到達できるタイプの仕事だからである。Meta広告の管理画面の触り方、LPの反響数字の読み方、Instagramのリール制作、チラシのレイアウト、お客様アンケートの分析、これらはすべて型化されている。型を教われる環境と、実行する時間と、フィードバックがあれば、未経験の担当者でも半年〜1年で確実に力がつく。
一方、経験者を採った場合の落とし穴は、この会社に馴染む前に「前職ではこうだった」を持ち込みがちなことである。住宅の商圏・予算・意思決定スピードは業界固有のものが多く、他業種の型がそのまま通用しない。むしろゼロから自社の商圏・自社のお客様像・自社の商品で育った担当者のほうが、長期的に自社の集客の土台を作れる。
住宅会社の集客力は、経験者を1人採ることではなく、未経験を育てて自社に根付かせることで初めて資産になる。

「未経験を育てる」と決めたら、次は誰を採るかの基準である。マーケ経験の有無を捨てた瞬間、面接で見るべき軸は変わる。以下の3つを、他のどんな条件よりも優先して見る。
前職の職種で言えば、事務職、営業アシスタント、接客業(アパレル・カフェ・受付)の経験者は、この3条件を満たしやすい。年収レンジは未経験なら350〜400万円が現実的なライン。ここを起点に、育成の設計に入る。

未経験を採ったら、次に絶対にやってはいけないのが「マーケ担当なんだから、集客業務は全部よろしく」という丸投げである。これをやると、育つ前に潰れる。広報・マーケ業務は多岐にわたるため、業務を4領域に分解し、半年ごとに1領域ずつ渡していく段階設計が要る。
住宅会社の広報業務は、大きく次の4つに分けられる。
失敗パターンは、これらを一気に全部渡すことである。「未経験なのにMeta広告設定もLP改修もInstagram投稿もアンケート分析も全部やらせる」を初日からやると、担当者は3か月で疲弊し、成果も出ないまま辞めていく。
正しい設計は段階的な権限委譲である。入社0〜3か月は①デザイン領域を中心に、既存テンプレートの調整や、指示された素材の作成に絞る。4〜6か月で②制作領域を加える。ここで初めてLPの部分改修やSNS投稿の下書きを任せる。7〜9か月で③数字管理領域を追加し、週次レポートの読み解きと簡単な改善提案までやってもらう。10〜12か月で④営業連携領域まで広げ、営業担当との定例に入ってお客様情報を吸い上げる役割を持つ。
一気に4領域を渡さず、半年〜1年かけて1領域ずつ拡張する。これが、未経験マーケ担当を「集客できる広報」に育てる業務分解の原則である。

未経験マーケ担当を育てるうえで、最大の投資先は担当者本人ではない。経営者自身が集客を学ぶこと。ここに手をつけないと、担当者は絶対に育たない。
理由は構造的である。経営者が集客を分からないままだと、マーケ担当が上げてきた提案・数字・レポートに対して、判断ができない。「Meta広告のCPAが下がったのは良いのか悪いのか」「Instagramのフォロワー数と来場予約数、どちらを優先すべきか」「今月のLP改修は続けるべきか、別の施策に切り替えるべきか」。これらの判断が全部担当者に丸投げされる。未経験入社1年目の担当者が、たった1人でこの判断を背負い続けるのは無理である。
経営者が集客を学ぶことのリターンは、単に「判断ができるようになる」だけではない。優先順位付け、予算配分、社内の営業組織との調整、そしてマーケ担当への日々の1on1でのフィードバック。これら全部の質が一段上がる。逆に言えば、経営者が学ばないまま社内にマーケ組織を作ろうとするのは、算数を知らない人が学習塾を経営するようなものである。土台がないところで、担当者だけが浮いてしまう。
経営者が学ぶといっても、資格取得や大がかりな研修は要らない。目安は週30分でよい。住宅マーケの実務系YouTube動画を1本見る、他社の広告事例を10件見る、月1で外部の勉強会か壁打ちに出る、自社のGA4管理画面を毎週1回だけ開いてみる。この30分が半年積み上がれば、担当者の提案を評価できるレベルに立てる。
一段踏み込むなら、経営者が月1回、マーケ担当と一緒に「今月の集客レビュー会」を30分持つとよい。数字を一緒に見て、担当者の判断に対して「なぜそう考えたか」を聞く。答えるうちに担当者は自分の思考を言語化でき、経営者は現場の解像度を上げていく。両者が同じ集客の景色を共有した時、初めて社内マーケ組織は自走を始める。
未経験を採る覚悟をした経営者が、最初に着手すべき投資は自分自身の学習である。

育成の時間軸は6か月〜1年、月別の段階は以下の通り。
半年〜1年という時間軸は、経営者の目線からは短くない。だが、経験者を無理に採って半年で辞められるコストと比べれば、確実に安く、確実に会社の資産として残る。

住宅会社のマーケ担当採用は、いま多くの経営者が「経験者を採る」の一択で行き詰まっている。しかし、経験者は構造的に採れない、来ても払えない、来ても定着しない。前提を変えて、未経験を育てる方向に切り替えるべきである。
未経験を採るなら、素直さ・情報収集力・細かい作業への適性の3つを見る。採ったあとは、広報業務を4領域に分解し、半年〜1年かけて1領域ずつ渡す。そして最大の投資は、経営者自身が週30分の集客学習を始めること。担当者は経営者を超えては育たない。
住宅会社のマーケ担当は「採る」ものではなく、「育つ環境を作る」ものである。育つ環境の中心にいるのは、担当者本人ではなく経営者。ここに気付けた会社から、集客組織は動き始める。
育てる会社が、勝つ。