
月に一度のマーケティング定例会議。「もっと認知を上げないと」「ブランディングが弱いですね」「若い層に届いていない気がします」。
議論そのものは前向きで、終わったときの手応えもある。だが翌月、同じ会議で同じ話をしている。先月やった施策がどうなったのかは、誰も口にしない。
バナーを新しくしたはずだ。イベントページも直したはずだ。だが結果を聞かれた人はいない。
先に結論を書く。マーケ定例で議論すべきは方向性ではない。表示・クリック・予約という各段階で、数字がどこまで落ちたかである。落ちた場所さえ特定できれば、直す場所は自動的に決まる。会議で悩む必要はなくなる。
まず、抽象度の高い議論の何が問題なのかをはっきりさせたい。
会議でよく飛び交う言葉がある。認知、ブランディング、若い層、世界観、ファンづくり。どれも間違ってはいない。だがこの種の言葉には、共通する欠陥が2つある。
ひとつ、次のアクションに変換できない。
「認知を上げよう」と決まったとして、誰が・何を・いつまでにやるのかが決まらない。決めたつもりで、何も決まっていない。だから翌週、誰も動かない。
ふたつ、検証できない。
仮に何かをやったとして、「認知が上がったかどうか」を測る手段がない。測れなければ、良かったのか悪かったのかも分からない。分からないから、翌月また同じ議論をする。
そして、この議論をしている間に何が起きているか。
来場1件を獲得するコストが、12万円のまま放置されている。
住宅会社の来場獲得単価は、業界平均で10〜15万円というのが実態である。一方、改善を積み重ねた会社は3〜5万円まで下げている。この3倍の幅が、そのまま改善の余地だ。

年間120組(月10組)を集める会社で計算してみる。
| 来場獲得単価 | 年間の広告費 |
|---|---|
| 12万円(業界平均の水準) | 1,440万円 |
| 4万円(改善を積んだ水準) | 480万円 |
差は年間960万円。同じ来場数を取るのに、これだけ違う。
厄介なのは、12万円という数字が「業界平均の中」にあることだ。平均の中にいると、異常だと気づけない。実際、来場獲得単価が15万円を超えていたのに社内の誰も疑問を持たなかった会社がある。周りと同じくらいだから、高いとは思わなかった。
抽象論の代償は、雰囲気の問題ではない。金額で出る。
では何を見るか。数字は5つで足りる。
並べる順番も決まっている。広告を見た人がたどる順路そのままに並べる。

⑤が最終的な成績表になる。ただし前章のとおり、この数字は業界平均と見比べても意味が薄い。平均の中にいても、改善余地は3倍残っている。
そしてもうひとつ大事な点がある。ここに挙げた目安値は、あくまで目安である。エリアの人口規模、競合の多さ、商品の価格帯によって水準は変わる。
最も確実な比較対象は、自社の過去の数字だ。直近3か月分を並べて自社の平均を出す。それが自社の基準線になる。今月の数字が基準線からどちらにどれだけ動いたかを見る。他社の平均より、こちらのほうが判断に使える。
ここが、この記事で最も実務に効く部分である。

5つの数字を順番に並べると、どの段階で人が減ったかが見える。そして落ちた段階ごとに、直すべき場所は決まっている。
| 落ちた段階 | 症状 | 直す場所 |
|---|---|---|
| 表示はされるがクリックされない | クリック率が0.5%未満 | クリエイティブ。画像を先に、次にコピー |
| クリックされるがページで離脱 | ファーストビューで大半が離脱 | ページの冒頭。広告とページの訴求が食い違っていないか |
| 読まれるが予約されない | ボタンが押されていない | 予約ボタンの表現と位置 |
| 動画の視聴が続かない | 離脱率が8割を超える | 停止して作り直す。粘らない |
| 予約は入るが来場しない | 予約数に対して来場が少ない | リマインドの設計と開催日程 |
この表があると、会議での聞き方が変わる。
「どこが悪かったですか」ではなく「どこで落ちましたか」と聞く。
前者は感想を求める質問だ。「うーん、クリエイティブが弱かったですかね」という曖昧な答えが返ってくる。後者は事実を求める質問である。「クリック率は1.2%で悪くなかったのですが、ページの冒頭で7割が離脱していました」という答えになる。
答えが事実になれば、次のアクションは表が教えてくれる。議論する必要すらない。この場合、直すのはクリエイティブではなくページの冒頭である。
ひとつ補足しておく。動画広告で離脱率が8割を超えたら、迷わず止めていい。改善の余地を探すより、作り直したほうが早い。粘る時間のほうが高くつく。

ここまでの話をすると、「うちも数字は見ています」と言われることがある。実際、見てはいる。
問題は、見て終わっていることにある。
典型的な流れはこうだ。
会議で先月の数字を報告する。「今月はこれをやりましょう」と新しい施策を決める。先月やった施策の結果は、誰も追わない。
具体的に書く。3月にバナーを新しく作った。4月の会議では4月の数字が報告され、「今月はイベントページを直しましょう」と決まる。3月に作ったバナーがどうだったかは、話題に出ない。5月にはまた別の施策が決まる。
これを1年続けるとどうなるか。バナーは12本作られ、どれが効いたのかは誰も知らない。施策は毎月動いている。工数もかかっている。それでも1年前と比べて、自社が上手くなった実感がない。
これは実行不足ではない。検証不足である。
そして検証が飛ぶのは、担当者が怠けているからでもない。そもそも検証できない形で施策を始めているからだ。ここに根本の原因がある。
なぜ検証できないのか。理由は単純だ。
「バナーを作り直す」という決め方をしているからである。
この決め方には、成功の基準が入っていない。だから1か月後に「どうだった?」と聞かれても、「まあまあでしたかね」としか答えられない。何をもって良しとするかが決まっていないので、評価のしようがない。

対策は、施策を決めた瞬間に3点をセットで書くことだ。
先ほどの例なら、こうなる。
バナーを作り直して、クリック率を0.6%から1.0%に上げる。2週間後の会議で確認する。
「バナーを作り直す」との差は大きい。この形にしておけば、2週間後の振り返りは1分で終わる。0.9%まで上がったなら方向は正しい。0.6%のままなら、画像ではなくコピーの問題かもしれない。どちらにしても、次に何をするかが決まる。
そして重要なのは、この3点は施策を決めた瞬間にしか決められないということだ。1か月後に「そういえば何を狙っていたんだっけ」と振り返っても、もう遅い。
会議での運用も決めておきたい。新しい施策を決めたら、その場で3点を書く。書けないなら、その施策は採用しない。厳しく聞こえるかもしれないが、狙う数字を言えない施策は、そもそも検証できない施策である。やっても資産にならない。
振り返りに凝った資料は要らない。4行で足りる。

記入例を2つ出す。
成功した施策の例
やったこと:バナーの写真を、内観から外観の引き構図に変更した
狙い:クリック率を0.6%から1.0%へ
結果:1.3%。クリック単価も180円から140円に下がった
次にどうするか:外観の引き構図を基本形にする。次は同じ構図でコピーだけ2案テストする
失敗した施策の例
やったこと:バナーのコピーを「大人気の見学会」から「予約受付中」に変更した
狙い:クリック率を0.8%から1.2%へ
結果:クリック率は1.2%に上がったが、予約は0件。ページの冒頭で8割が離脱していた
次にどうするか:広告は「予約受付中」で急かしているのに、ページの冒頭は物件紹介から始まっていた。訴求が食い違っている。次はページ側を広告に合わせて、冒頭に予約枠の残数を出す
丁寧に書くべきは、後者のほうである。
理由がある。成功には偶然の要素が混ざる。たまたま競合が広告を止めていた、天候が良かった、開催日が良かった。だから成功をそのまま再現しようとしても、同じ結果になるとは限らない。
一方、失敗には必ず理由がある。そして理由は言葉にできる。上の例で言えば「広告とページの訴求が食い違っていた」という一文が残る。これは次から避けられる。
失敗の記録は、負けパターンを潰すための資産になる。成功事例集より、失敗の理由を書いたメモのほうが、実務では役に立つ。

最後に時間配分の話をする。
多くのマーケ会議は、新しい施策の議論から始まる。今月は何をやるか。次のイベントの広告をどうするか。ここが盛り上がる。
だが、順番を逆にしたほうがいい。
推奨する配分はこうだ。
60分の会議なら、最初の35分は先月やった施策の振り返りに使う。4行の型で1施策ずつ確認する。施策が2つなら、1つあたり15分あれば十分だ。
そして新しい施策の議論が盛り上がる会議ほど、振り返りが飛んでいる。これは経験則として、かなり当たる。新しいことを考えるのは楽しく、終わったことを検証するのは地味だからだ。だから意識的に順序を固定する。
決める施策は2つまでにしておきたい。住宅会社のマーケティング担当はほぼ全員が兼務で、使える時間は週に数時間しかない。3つ以上抱えれば、月末にどれも中途半端になる。やりたい施策が3つ出たら、1つは翌月に回す。
会議のあとに残すのは、振り返り4行 × 施策の数と、今月やる2つ(担当者と期限つき)。これだけでいい。きれいな議事録は要らない。

マーケ定例会議が「認知を上げよう」で終わってしまうのは、参加者の意識が低いからではない。抽象的な言葉は、次のアクションにも検証にも変換できないという構造の問題である。
だから見るものを5つに固定する。表示回数、クリック率、クリック単価、イベントページの予約率、来場1件あたりの獲得コスト。この順に並べれば、どこで人が落ちたかが見える。そして落ちた場所ごとに、直すべき場所は決まっている。会議で悩む必要はない。
そして施策を決めるときは、必ず3点をセットで書く。狙う数字、目標値、確認する日。これがないと、1か月後に「まあまあでした」としか言えなくなる。
振り返りは4行。特に失敗した施策こそ丁寧に書く。成功は偶然を含むが、失敗には理由がある。理由は次から避けられる。
来場獲得単価が12万円から4万円になるのは、一発の施策では起きない。クリック率が0.4%上がった、ページの離脱が1割減った——その程度の改善を、20回、30回と積み重ねた先にしかない。
決めるのは施策の数ではない。改善の数である。